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タイ深南部勉強ノート

英語、タイ語、マレー語、日本語からタイ深南部紛争地域の情報をぼちぼち整理しています。 自分用のメモなので時々書き直し、追加あります。

混乱が進む状況下の人権[1]

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混乱が進む状況下の人権[1]

ディープサウスウォッチ

南部県公共サービスプロジェクトは、パッタニー県のCSパッタニーホテルにおいて異常事態における人権と題したセミナーを開催した。ディープサウスウォッチはこの中で人権活動家と軍司令官の発表を記録し文書化した。

人間の生活の中で人権と治安は補完しあいながら関連している。治安の目的は人々の生命と財産を守ることであり、人権は人間の幸福に欠かせないものである。しかし、この二つの間の境界は何だろうか?そして重要なのは、なぜこの二つともタイの南部国境県の紛争と暴力という文脈の中では十分に発展していないのであろうか?

タイの南部国境県のこういった課題に対する対照的な考え方を理解するために、ディープサウスウォッチは 人権活動家と軍高官双方の意見を聞くことを試みた。最初の発表者はヤラーのムスリム弁護士センターの事務局長で弁護士、人権活動家でもあるシッティポン  チャンタラヴィロイ。二人目は市民警察軍合同部隊副司令官のスパット ウィチットカーン将軍である。

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「政府は非常事態令が本当に南部国境県で求められているかどうか住民投票をする勇気があるだろうか?人々は効率的で公正な司法制度を求めているが、現在の制度ではそれは非効率で恣意的な意思決定に阻まれている。結局、深南部における正義の欠如に苦しむのは家族やコミュニティーなのだ。」
シッティポン  チャンタラヴィロイ
ムスリム弁護士センターの事務局長

 2004年以来、ムスリム弁護士センターへ約1000件ものケースが市民により持ち込まれた。受け取った苦情のうち最も多いのが人権侵害に関するものだった。 主な理由は二つの法に由来する。その一つは2004年の1月に深南部3県とソンクラー県の4郡で発令された戒厳令である。 もう一つは非常事態令である。2005年7月に初めて適用されて以来3か月ごとに繰り返し延長されている。二つともこの地域でいまだに有効である。そしてこの二法とも明らかに政府当局に過大な権限を与えることによって市民の権利を制限している。これらの法律の合法性は、非常事態の際には非常事態令及び戒厳令を発行することを憲法が許可していることからくる。

治安部隊が暴力的紛争や戦争といった特殊な状況下で特別な権限を有する必要があるのは本当であろう。しかし、これらの法律がタイの治安部隊が組織的に人権侵害を起こす要因となっていることは理解せねばならない。主な理由は非常事態令も戒厳令も政府当局を免罪することができるためである。しかし、国際法は、国家が人権侵害を犯すことを禁じていることを忘れてはならない。

他にも二つの法律が人権侵害に関連していることがある。一つはっきりしていることは、治安部隊の行動を監視する独立機関が存在しないことである。

ムスリム弁護士センターは、公務員で人権侵害で起訴されたものが一人もいないことを発見した。 一方で市民が400件以上の人権侵害の事件を届け出ていることは指摘されなければならない。

もし誰もが法律の内容をきちんと守っているなら人権問題ははもっと少ないだろう。しかし、国家治安部隊を起訴する事を、不可能でなくとも困難にさせる規定を含む非常事態令のために法律が守られてこなかった。

一方で、南部国境県の現状は 改善していない。暴力の数は減っていても衰えは見せず、国家治安部隊に対する敵意はより高まりを見せている。

戒厳令は、容疑者を尋問する必要があると見なした場合、逮捕状なしで拘置所に入れ7日間容疑なしで拘留できるとしている。この法律が逮捕でなくて拘留という用語を使用しているのは興味深い。戒厳令下で拘留された容疑者は最初の3日間家族や弁護人に連絡することを拒否される。彼らは基本的な人権がなく、独立機関も拘置場所において国家当局を監視することができない。

7日の拘束の後、容疑者は陸軍へ移送される。こうなると容疑者はもう一度尋問され、罪を認める人も出てくる。罪を認めると警察が逮捕状を裁判所に請求する。裁判所が逮捕状を発行すると、警察はさらに7日間容疑者を拘留することが法的に可能となる。

タイの通常の状況下(例えば、戒厳令も非常事態令も適用されていない南部国境県以外の場所)では、逮捕状が警察に交付される時、最高裁判所の判事が 警察に逮捕状発発行におけるガイドラインを支給する。しかし非常事態令下では、州裁判所が警察に逮捕状を交付するが、裁判所は最高裁判所判事が定めたガイドラインに従う必要がない。代わりに、州裁判所が自分でガイドラインを作成できる。

7日間の拘留中、容疑者は被告ではなく逮捕者である。このため彼らは弁護士に面会する権利があるが、2007年に国内治安維持司令部(ISOC)第4管区司令部が、拘留の最初の3日間は訪問者との接触を禁じる規則を作った。この観点から逮捕者は被告より少ない権利しかもっていないことになる。しかしのちに、ISOCはこの規則を廃止した。現在は非常事態令下でも逮捕者は拘束の最初の3日以内に家族や弁護人に面会できる。

 我々(ムスリム弁護士センター)は、続く7日間の拘留の間に逮捕状に書かれていない場所で逮捕者が拘留されているのを発見した。さらに、いくつかのケースではその場所が正式な拘置所ですらなかったのである。

加えて、非常事態令下ではもし当局がある逮捕者を7日以上拘留したいなら、延長を州裁判所へ請求しなければならない。そしてそれは30日を超えることはない。つまり逮捕者は37日より長くは拘留されない。

同じく非常事態令下では、もし当局が最初の7日間以上拘留を延長したいと考えたら、その容疑者を裁判所に出頭させる。そして、もし自分がさらに拘留されるいわれがないと考えればそこで容疑者は抗議を表明することができる。しかし、戒厳令と非常事態令下では逮捕者は裁判所に出頭を求められず、その結果裁判所は逮捕者が国家当局にどんな扱いを受けたか知らない場合もあった。

 私の見方では、国家当局はもし彼らの行動を監視する人や制度がなければやるべきことを放棄してやらない傾向にあると思う。例えば、通常の状況下では、警察が逮捕した人物の追加拘留を求める時は、逮捕者を毎日裁判所へ連れて行かなければならない。しかし、戒厳令と非常事態令下ではこういったことは求められていない。

 我々は逮捕者を拘留することに対する態度と考えを全く改める必要があると私は考える。逮捕者やその他の人々の基本的権利を損なうことでタイ政府は南部国境県の多くの人々の気持ちを遠ざけてしまっている。これは不必要な事態である。タイ国家と深南部の多数派イスラム教徒との間に信頼を築き、誠意のある関係を作ることが重要である。

 タイの法律では、容疑者が10年以上の禁固刑を受ける場合、弁護人を立てなければならない。しかし、戒厳令下では、 弁護人は容疑者のところへ行くのをいつも許可されるわけではない。不幸なことに、裁判所で容疑差に不利になる証拠を当局が探す機会が増すというのが主な理由でこの法を変える計画はない。

 2004年以来、裁判所はケースの70%を不起訴にした。一般的に各件は裁判所が判決を出すまで少なくとも2年 かかっている。被告人が分離主義運動と関係しているという容疑の場合、保釈が認められることはほとんどない。こういったケース場合、控訴裁判や最高裁判まで行くのに通常少なくとも4-5年がかかる。

政府が人権侵害を減らすのにたくさんのステップがある。特に重要なのは、中立な独立機関が国家当局の行動を監視することを許すことだ。私はこれが実現すれば人権侵害はずっと減ると確信している。

 もう一つの重要なステップは、政府が南部国境県の住民の意見に真剣に耳を傾けることだ。政府はいったい南部の市民達に戒厳令や非常事態令についての意見、特にこの二つの法律を望んでいるかどうか聞いたことがあるのだろうか。主に非常事態令や戒厳令の規定のせいで人権侵害が定期的に起っているが、これらの法律はどのように役に立っているのだろうか。政府は非常事態令が本当に南部国境県で求められているかどうか住民投票をする勇気があるだろうか?人々は効率的で公正な司法制度を求めているが、現在の制度ではそれは非効率で恣意的な意思決定に阻まれている。結局、深南部における正義の欠如に苦しむのは家族やコミュニティーなのだ。

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長いので軍幹部の意見は②で続けます。

http://www.deepsouthwatch.org/node/310 (英語)
http://www.deepsouthwatch.org/node/290 (タイ語)

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