3ヶ月ほど停止していた公式協議ですが、やっと次の協議に向けて動き出したようです。
この間、マレーシアのクランタン州で実務レベルの調整会議が何度か行われましたが、その中心になっていたのはNSCでもSBPACでもなく、パラドン事務局長から委任された軍関係者でした。
この記事ではこうした状況から、軍がNSCとSBPACから和平協議の主導権を引き継いだのではないかと推測しています。
その真偽はともかく、ここでは調整会議がなぜクランタン州で行われているかという基本的な点について少し記します。
クランタン州はナラティワート県に接し、マレーシアの中でもイスラム色が強いところです。ここには紛争で深南部から避難してきた人を含め、深南部タイ出身者がコミュニティーを形成し、その数は20万人に及ぶと推定されています。もともと親族がマレーシアにいたり、マレーシア政府がマレーシア国籍を取得させたりしているため、2重国籍者が多いのも特徴です。
地形図を見るとわかりますが、クランタン州とナラティワート県の国境は高地であり、それが監視を届きにくくしています。ここに国境フェンスを設置するという提案がこれまで何度も出てきています。
また同じく深南部と国境を接する西隣のペラ州が中国系住民が75%を占めるのに比べ、クランタン州は信心深いイスラム教徒が多数を占める州です。
つまり、クランタン州は指名手配されたイスラム教徒がタイ当局の追及を逃れて国境を越えて潜伏するのに適した環境にあります。こういった事情がここで実務レベル会議をする理由のようです。
ちなみに、当然ですがタイ側は「犯罪者」が活動できるのはマレーシア政府が保護を与えているからだと非難しています。
それではなぜマレーシア政府は彼らを保護したり、和平協議に尽力するのかと言うとこれは明確な理由があります。それはクランタン州が、
与党が唯一1990年以来ずっと議席が獲得できない州であるからです。(2004年選挙まではクランタン州だけが与党が勝てない州でしたが、2013年5月の選挙では野党が3州を獲得しています。)与党のナジブ首相が和平の仲介に力を入れるのは、以前書いた「
マレーシアにとっての南タイ」で紹介した防衛戦略としての南タイという位置づけの他に、この地のタイとの2重国籍者の選挙の票であると言われています。彼らの問題を解決すれば、与党支持者が増えるとの見込みがあります。
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