「治安要員の構成」「防衛ボランティア(オーソー)」「村落の治安ボランティア」の続きです。
準軍組織であるタハーンプラーン(パラミリタリーレンジャー)についてです。
1.タハーン(ミリタリー)
2.タハーンプラーン(
Paramilitary Volunteer Ranger)
3.タムルワット(Police/警察官)
4.オーソー(อส/アーサーラクサーディンデーン)Volunteer Defense Corps/防衛ボランティア)
5.オーポーポーロー(อปพร /市民治安ボランティア)
6.チョーローボー(ชรบ /チュットラクサークワームプロートパイムーバーン/
村落平和維持隊/Village defense volunteer)
7.オーローボー(อรบ/アーサーラクサームーバーン/
村落防衛ボランティア/Village Protection Force)
タハーンプラーンは、正規兵を補うためにあります。その部隊には必ず正規の軍指揮官が入っています。企業で言うと、契約社員のようなものです。
「治安要員の構成」でも書きましたが、正規兵が足りないため正規兵と同じぐらいの数が採用され配置されています。
タハーンプラーンは、正規兵と同じで戦闘にも参加するにもかかわらず、
正規兵と比べて規律が低く、訓練を十分受けていないため問題を起こしやすいというのは既に常識になっていて、ここでひとつひとつ取り上げることもないと思います。ICGは
「パラミリタリーの問題」というタイトルの報告書で彼らを特に取り上げています。タハーンプランと地元民の間で問題が頻発したために、一部では女性部隊も活用されています。
→【映像】女性部隊。部隊の歴史背景や駐屯地の情報は、ウィキペディアの
タハーンプラーンを参照。
ここでは、なぜ問題の多い彼らを配置し続けるのかという視点で見ようと思います。
第一の理由は、正規兵より安価であることです。彼らは徴兵された兵よりも高い給与を得ていますが、正社員(正規兵)のように長期的な人材育成の必要がなく、忠誠心を育てる必要がないので、社員教育(訓練)もコストをかけません。なので、訓練費用等も含めると、一人当たりのコストはわずかですが、徴兵より安くなります。
さらに重要な理由は、兵力の調整弁としての役割です。タハーンプラーンは、契約社員ですから、景気が悪くなると(治安が回復して必要がなくなると)簡単に首を切ることができます。ISOCは治安状況で予算が決められていますので、必要数は毎年変化します。正社員は一年に決まった時期に決まった数しか採用できませんが、急な需給の変化に対応して随時リクルートできるのが彼らです。そして、正規兵と同様に戦闘を想定した任務の代行ができるのはタハーンプラーン以外にありません。
別の面の理由として、彼らは地元に明るいという利点があります。正規兵が、徴兵されてもどこに配属されるかわからない(従って地元とは限らない)のに比べ、タハーンプラーンは地元採用なので、地理や地元の習慣、地域事情に詳しく、そのため彼らは容疑者の捜査で活用されています。
(ただ、現実にはこの地元採用の利点は十分生かせていないようです。上記のICGレポートによると、彼らのうちマレームスリム系はわずか30%で、地域のイスラム教徒の割合80%とは乖離しています。理由は、リクルートの際にイスラム教徒が排除される傾向があること、イスラム教徒の若者の参加意欲が低いことだそうです。)
また、彼らは契約が続く限り配置し続けることができるので繋ぎ要員という側面もあります。これが正規兵の場合だと新兵が慣れるまで時間がかかり、2年たって一番よいコンディションになった頃に兵役は終了し、新規兵の交代が来るという繰り返しです。タハーンプラーンはこの隙間を埋めるのに役立っています。
ちなみに、徴兵だと一年に2グループありますが、春のグループと秋のグループでは質が違うという悩みもあります。これは、徴兵のくじ引きが春で、すぐ兵役についてできるだけ早く終わらせようとする春グループと、先延ばしにする秋グループとではそもそも意欲が違い、秋グループは規律が低くなりがちです。これらの諸事情に配慮して、兵力の配分が決められています。
タハーンプラーンは様々な理由で志願してきているので、中には戦闘能力が高い人もいますが、十分な訓練を受けているのは3分の1と言われます。その彼らが、容疑者の捜査や、分離派との戦闘に参加すれば、その脆弱性をつかれて狙われる率も高くなりますし、その過程で人権侵害を起こすのも当然と言えば当然です。特に深南部のタハーンプラーンは短期間で多く採用されたため、十分な訓練がないまま配属され、戦闘で犠牲になる人が多いようです。
※呼び方について、英語や日本語ではレンジャー部隊とすることが多いのですが、ICGの定義に沿ってパラミリタリー、または、同じパラミリタリーとされる防衛ボランティアと区別するためにタハーンプラーンの方は、パラミリタリーレンジャーとします。また、よくMilitia(ミリシア・民兵)という単語も出てきますが、これもICGに沿って村落の治安ボランティアの呼び方に限定します。