注:2009年1月18日、ソンクラー県ハジャイ市のノボテルセントラルホテルにて、ディープサウスウォッチ(DSW)と南タイジャーナリスト協会が協働で南タイの紛争にかかるセミナーを開催した。
タイトルは「南部紛争の5年間:戦争と知識、混乱、そして現在何が問題か?」である。
暴力を抑制する国家政策
「タイ政府は来ては去っていく。しかし深南部三県の住民は自分たちと協同して議題を作成する政府をずっと待っている。」
スクリー ランプテー(ヤラーイスラムカレッジ)
このトピックで重要な点は、かつてハジスロンによって提案され議論された地域政策に関するものである。ハジスロンは50年前にこれについて述べたが、彼の提案は今日まで議論を巻き起こしている。このうちの一つはイスラムのシャリア法の適用に関するものである。家族に関する事ではすでにイスラム法で裁くことが可能となっているが、これはイスラムのシャリア法とは異なっている。そのため、シャリア法の完全な適用を求める声が存在する。
イスラム法は利子を禁止しているが、これは教育と経済活動に大いに関係する。教育ではいまだ多くの人々がタディカー(児童が休日や放課後にイスラム教育を受ける場所)と私立イスラム学校が無利子の融資を受けることを望んでいる。経済問題に関しては、多くの人が無利子融資を行うイスラム銀行制度の発展促進について言及し続けている。
このような要望がずっと前からあるにもかかわらず、タイ政府はほとんど取り組んでこなかった。タイ政府は来ては去っていくが、深南部三県の住民は自分たちと協同して議題を作成する政府をずっと待っているのである。
この提案のせいで政府の目にはハジスロンが分離主義者であると映ったことは疑いの余地がない。しかし、今日も多くの人が同じようなアイディアを提案し続けている。タイ政府が人々の要望を取り入れるような改革に消極的であっても、これまでいくつかの進展はあった。少なくとも多くの政府役人が南部のムスリムの提案を聞く意欲を持つようになった。これはつまり深南部の外のタイ人も地域の問題の複雑さについて理解するようになってきたことを示している。しかしこうした進歩にもかかわらず、後継の政府は相変わらず同じような政策を維持し、南部の暴力を抑え紛争を解決することができないでいる。解決のためには、政治の葛藤として事態に当たってはならない。政府の役人が繰り返し国全体の安定と言うように南部の人々も同じように安定を望んでいるのだ。
地元住民の中にある安定への切望は、地域の人々を4つの大きなグループに分類すると見えてくる。1)内部者(例えば攻撃に直接参加している人々)2)内部的外部者(例えば攻撃グループを支持しているように見えるが実際には支持していない人々。3)外部的内部者(攻撃とは関係ないように見えながら実際は支持している人々。4)外部的外部者(攻撃を支持しない人々)このうち最も大きなグループは外部的外部者である。
タイの人口は大多数が仏教徒のタイ人であるため、タイ政府はいろいろな民族グループを内包する国家が直面する問題に取り組む経験と知識が不足している。タイ政府の役人はマレーシアへ行って多文化社会のもつ問題へのより良い取り組みを学ぶのが良いだろう。
マレーシアは民族的に多様であるにもかかわらず、マレーシア国家は民族間の緊張を抑制するのにおおむね成功している。タイ政府がマレーシア政府に見習うべき分野の一つが多言語多民族教育だ。
これに関して、タイ政府は深南部のパッタニー、ヤラー、ナラティワート三県で使われている3つの言葉を認めるべきである。多くの住民が地元のマレー語(ヤウィー語)とタイ語だけでなく、標準マレー語とアラビア語が話せる。タイ政府が標準マレー語とアラビア語の学習をもっと支援すれば、それが有効であると実証できるだろう。3県の地元のムスリムがこれらの言葉をより理解すれば、マレー語とアラビア語を話す他の国々の人々と効果的にコミュニケーションすることが可能になる。彼らが活躍する機会が増えるだけでなく、これらの言葉を話すたくさんの国々との貿易促進にも役立つ。
地域の統治に関する見通し
「統合的、標準的な統治制度が独自性のある地域にも適用されるべきか?それとも収束の兆しを見せない暴力と長期化する紛争を軽減させる努力の一つとして新しいモデルを実践すべきか?平和を導くためにどんな改革がなされるべきか?」
チャトゥロン チャイセーン
元タイ国副首相
もし我々がタイ全体と共有できる大きな価値観を協力して創ることができなければ、深南部の問題を解決することはできないだろう。したがって国家、宗教、地域の資源管理に関する政策は非常に重要である。これらの政策は国家構築と深く結びついている。しかし、地域独特の民族的宗教的特性に適用するためには、政策面でもこのグループの独自性についてもっと考慮する必要がある。
実際に、深南部の人々はパッタニー王国から受け継いだ彼ら独自の歴史を保持している。こうした歴史、宗教、民族性は彼らがタイの他の地域の人々と異なった意識を持つ理由となっている。この地域の人々との関係を良くするためには、宗教的実践の自由を促進するだけでなく、イスラムや暴力に対する多くの誤解に焦点をあてていく必要もある。
もう一つの課題は開発と関係する。深南部三県の人々は宗教、教育、政治に関する問題を議題にあげる第一の責任者であるべきである。開発の恩恵を最も多く享受するため、彼らの生活を決定する事項についてより発言できることが不可欠である。スクリー ラングテーが指摘したように、現在の状況の一番の原因は現実的で正統性のある住民参加の仕組みが欠けていることである。
効果的な統治で暴力をコントロールし減少させることは重要であるが、効果的な統治のみでは問題を解決することはできない。これまで人々が議論してきた様々な提案を見ると、地域の人々の特性を考慮した提案もある。もし実行されれば、このような提案は問題解決の一助となるだろう。
しかし、地域の独自性に特別な関心を払った提案は、いつもタイ国家にとって問題となる可能性がある。従って最も重要なのは、タイ国家がこれを受け入れることができるかという点にある。実際、国は自治に対して理解は示しているが、いまだ特別地方自治を承諾する意思はないだろう。なぜなら、タイ国家は一つの絶対的な国家統治体制を望んでいるからである。
ここで効果的な地方統治へ向かう方法が二つある。一つ目は、タイの他の地域と同じ統治体制を続けていくことである。しかし、この方法は現在の南部の暴力的で不安定な状況と関連している。もう一つは、特別地方自治を実施することである。これは暴力活動を減少させ、より平和をもたらすだろう。
将来においても政治と治安に関する政策は非常に重要である。しかし、同じように重要なのは人々と政府間の相互理解を醸成されることである。これを達成するためには、すべてのレベルで政府職員が真摯に責任を持って人々に奉仕することが不可欠である。政府も、たびたびの政権交代とそのたびに変わる政策ではなく、矛盾のない明確な政策を策定しなければならない。
もし、深南部の人々が統治にアプローチするようになり、国と協働して地域のための健全で適切な統治方法を発展させたら、統一が促進され、より効率的な政治体制を創ることが可能となるだろう。
ソース
http://www.deepsouthwatch.org/node/282 (英語)
http://www.deepsouthwatch.org/node/273 (タイ語)