最近の一連のBRNのビデオを見ると、タイ政府と分離派の双方向の情報合戦が始まったように感じます。
当然ですが、それはタイ政府が望まない状況です。例えば、今回のBRNのビデオは、ユーチューブにupされると直ちにインターネットで紹介され翻訳が出回り、次の日には一般のテレビに紹介されました。南タイに関心のないタイ人の目にも触れたという点でも分離派の作戦は成功でした。
さらに、内容についても同様に情報合戦が行われています。
BRNの三つ目の映像で、多くの残虐事件を軍が行ったと非難しましたが、これはそのまま受け取るのは難しいと思います。クルセーモスクやタクバイ事件は自明だし、他にタイ側に責任がある事件がないとは断言しませんが(むしろ、直感的にはある気がします)事件の全てが仏教徒の内輪もめや、分離派の仕業に見せかけるタイ軍の仕業とするには無理があります。
じゃあ、なぜそれをわざわざ彼らが主張するかというと、BRNの一連のビデオはそういう作戦だからとしか言いようがありません。普段からタイ政府に不当な扱いを受けていると感じている人々や、そういう人々に同情を寄せる外部の人があれを見て、さらに今後タイ政府がきちんと事件について調査しなかったら(そしてその可能性は高いです)、タイ政府に対する不信感はさらに広がるでしょう。
こういう手法はタイの政治では普通に使われています。政治家の「詭弁」は、彼らにとっては詭弁ではなく自己を有利にするための情報戦なのですね。逆に言うと、こういう場合は単なる言葉の押収なので、まだまだ交渉の余地はあるということです。
ちなみに
「『パタニ』をめぐる多言語Websiteの動向 2000-2006 南タイ分離主義運動におけるNet Warの可能性」 には、分離主義グループ(主にPULO)によって何がインターネットを通じて発信されていたか詳しく考察されています。
インターネット時代以前は、タイ政府は容易に情報をコントロールできたため、南部で実際に起こっていることは外部には漏れませんでした。分離派側は情報戦に参加することさえできませんでした。それが、今即座に世界中に共有されるようになっただけではなく、それを利用して自分を有利に持っていく闘いが行われている、我々はその実況中継を見ているのだと思います。
そして、もし交渉が公にならなければ、その効果は半減だったと思います。タイ側がずっと交渉を秘密にしてきた理由がわかります。
6月9日追加:バンコクポスト
「BRNが有利」6月11日追加:
ネーションのBRNの情報戦略についての識者の分析記事