昨日、
標記の記事が飛び込んできて「はて、5つの平和な郡とは何ぞや?」と思って読んでみたのですが、内容自体は指定された郡の住民と政府、軍、宗教者などが協力して平和と開発を行うというコンセプト自体はこれまでと大きく違う印象はありません。
12月1日から既に始まっており、対象郡はナラティワート県のバチョ郡とジョアイローン郡、パッタニ県のノーンヂック郡、ヤラー県のヤラー郡、ソンクラー県のナータウィー郡です。今後37郡全体に広げていきたいということです。
この「平和郡」と「セーフティーゾーン」は似ているようですが、セーフティーゾーンというのは、マラパタニが和平協議の相手としてふさわしいか影響力を見つつ、タイ政府と反政府側が協力する場を作り出すのが目的なのに対し、平和郡というのはISOC第4管区(深南部の治安維持を担当する主体=軍)が主導して行う開発というイメージで、開発パッケージの投下と住民を動員して行うやり方は、タイ政府=治安部隊の思惑が先行している印象です。
「5つの平和な郡」が突然出てきたように見えるのは10月に着任したばかりの
Vivan陸軍第4管区司令官(=ISOC第四管区司令官)と関係しています。彼はキャリアのほとんどを第4管区で過ごし、
プラウィット副首相兼国防相と関係が近い人物です。(プラウィット副首相はプラユット首相の元上司で、次の首相とも見られている人物。現警察長官・陸軍司令官・国家汚職防止取締委員長等、主要ポストは全て彼の部下。)Vivan第四管区司令官のこうした背景が、上のような唐突に見えるプロジェクトや、マラパタニへの独自交渉人の派遣となって、実際に現場の混乱を引き起こしているようです。
ただ、基本的に軍内部の意思統一の欠如は常に存在し、現場の指揮官のカラーによって強弱があるといった方が正しいでしょう。第四管区以外にも陸軍の特殊部隊も情報収集目的で独自に反政府側と接触しようとするなど、タイ側が「和平」という目的に向けて一枚岩になれるのかという点では難しさを抱えています。
当たり前ですが、深南部の和平は中央の政治の動きと連動しています。国家の重要議題として和平協議を位置付けるようにマラパタニ側が要求するのも、和平協議が時々の政権の道具にされ結局何も生み出さなかった経験から来ており、ここを整理せずに先に進むのはおそらく無理でしょう。