注:2009年1月18日、ソンクラー県ハジャイ市のノボテルセントラルホテルにて、ディープサウスウォッチ(DSW)と南タイジャーナリスト協会が協働で南タイの紛争にかかるセミナーを開催した。
タイトルは「南部紛争の5年間:戦争と知識、混乱、そして現在何が問題か?」である。
5年間の学びと教訓
もし政府が地域の平和維持のために軍に依存するという同じ政策を取り続けるならば、追加で2359億8400万バーツの投入が必要となるだろう。これを合わせると国家の治安維持費用の合計は2004年からの累計でおよそ3452億8000万バーツとなる。軍による解決はさらに5年から10年の時間がかかるだろう。
シーソンポップ ジットピロムシー博士
プリンスオブソンクラー大学パッタニー校政治科学部
深南部県:暴力の5年間と実現可能な出口への試み
2004年1月から2008年12月まで8600件以上の暴力事件が深南部で起こっている。過去10年間で2004年から1日平均5件と暴力が激化しているのが見て取れる。暴力事件数は2005年にピークに達して2297件、1日当たり6件となった。2008年には暴力は目に見えて減り1日2件となった。、
この5年の間、国家は1090億バーツを暴力抑制のために配分した。これはつまり1件の暴力事件を減らすために8800万バーツが費やされた計算である。
もし政府が地域の平和維持のために軍に依存するという同じ政策を取り続けるならば、追加で2359億8400万バーツの投入が必要となるだろう。これを合わせると国家の治安維持費用の合計は2004年からの累計でおよそ3452億8000万バーツとなる。軍による解決はさらに5年から10年の時間がかかるだろう。
さらに、このようなアプローチが取られ続けると、さらに多くの人権侵害をもたらしそれが飛び越えてより多くの暴力闘争への支持へとつながる可能性がある。
この5年間、警察と国軍は1万件以上の逮捕を行った。6000件以上が起訴されたが、そのうち2.5パーセントしか裁判まで行っていない。
2008年には2007年と比べ事件が1200件減少したが、死者または負傷者が発生した事件数は多いままである。犠牲者ほとんどは地元の市民と兵士である。興味深いのは、2007年から2008年の間、兵士や警察官よりも村長が多く犠牲となっていることである。これはおそらく反乱分子がタイ政府への報復を行っていることを示している。
警察に関しては、最初の数年よりもより慎重に逮捕や捜索、押収を行うようになったようだ。これは国際人権団体が彼らの活動をモニターしているという認識が育ってきたためであろう。
結論として、暴力事件を減少させ、さらに長期化する紛争を解決すために必要な最も重要な改革は政治改革であると言える。タイが治安組織に大幅に依存するかわりに政治改革を推し進めることによって、おそらくこの地域にかかるコストを大幅に減らし、同時に暴力を減らすことができるだろう。
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2008年の傾向はイデオロギーキャンペーン戦略
プラシット メークスワン
南部国境県教師連合コンサルタント
南部の戦争:2008年の状況
2008年と2009年の国家戦略は安定の確立と地域開発にますます集中している。そしてそれは地域の治安維持と情報戦術が含まれている。
暴力事件の減少は国家の治安維持戦略が改善され、情報収集もより正確になったことを示唆している。しかし、政府と地元住民とのコミュニケーションは不十分で非効率なままであり、反乱分子がその状況から利を得ている。
さらに教育が非常に遅れている。この状態が続けば、5年後にはこの地域の教育の質はカンボジア並みになってしまうだろう。
暴力事件に対する地元住民の見方では、ほとんどが政府の役人が昇進のために暴力を作り出しているといううわさを信じていなかった。紛争が激化した初期の頃と違い、2008年になると広範囲の住民が、暴力事件の裏には分離主義運動が実在すると信じるようになっていた。そして国際的な支援を得る戦略に目を向けると、政府側が国外からの介入を阻止する措置を取り、それが成功したため分離運動は外部支援を得ることができなくなっていた。
分離主義者の戦略は三つある。一つめは破壊活動を行うことで支援ネットワークを広げることを狙うものである。二番目は南部国境三県において暴力をより多く引き起こすことである。この戦略は成功したと言える。なぜならこの地域に住む仏教徒の数が劇的に減少したからである。特に2004年は約30万人の仏教徒がこの地域に住んでいたが、現在は7万人にまで減ってしまった。三つ目は運動が国際的な連帯を目標にしてきたことである。この点では今日まで成功していない。
2009年には政府は明確な政策を中心に置いた戦略を実施すべきだ。しかし、これまでのところ政府は説得力のあるシステマティックな戦略を打ち出せていない。
重要なことは、展開する部隊の数を減らす方向で政府が仕事を進めることだ。この地域にこれ以上の部隊を送り込むのではなくその部隊全体の質を高めることに集中すべきである。
一方、反乱運動は常に新しい人員をリクルートすることで人的損失を補ってきたように見える。
興味深いことに、パッタニーの人々がイスラエルとハマスの間のガザ地区の戦争で見られることである。ハマス支援のこの行動により、実際のところより多くの国際支援を反乱運動が得ているという分析もある。一方で、例え国際的な連帯があったとしても、これがただちに強力な国際支援を受けているということにはならないと考える人たちもいる。
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過去5年間の政府関係者の見解に関するディープサウスウォッチの学び
「予算は反乱運動の撲滅のためだけに使われたのではなかった。」
ラーチャイ大佐
警察陸軍文民合同部隊参謀長
シーソンポップ教授の調査の中の情報に関して、付け加えるべきことは南部国境県の事態解決のために組まれた予算は反乱運動の撲滅のためだけに使われたのではなかったことである。地元のコミュニティー支援のためにも予算は使われた。例えばコミュニティー開発と回復のためにも予算は配分された。兵士を含む多くの人々が生活困難の保障として経済的支援を受け取った。そして重要なのはこの予算によって住民の安全も守られたという点である。
政策の目的は以前と同じである。南部国境三県をタイから分離させないということである。
人権侵害に関しては、我々はそれが起こったことを認める。しかし、理解してほしいのは兵士たちは普通の人間だということである。仲間が殺されたのを目撃するという衝撃的な体験をした彼らは、期待される行動規範を常に頭に置いて行動することができなくなる。その行動規範とは政府が明確に定めた、この地域の190万人の人々に奉仕し責任ある態度を持って規則規範に従うということである。
兵士の行動に問題はあるかもしれないがよく思い出してほしい。兵士の存在が反乱分子が攻撃を仕掛けるのを抑制し、若者が攻撃に加わるのを思い止まらせているのを。それに全般的には兵士たちは自分たちの任務をよく自覚しており、人権侵害を起こさないようにしている。
さらに公的な調査では3県の住民の大半は政府の非常事態宣言を支持しているという結果がでている。
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「我々はどのようにしたらこの紛争を解決できるか?これまで有効な政策はなかったが、それでも我々は紛争解決へ向けて公平な態度で仕事をしなければならない。」
ソムクアン警察中佐(アブン警察中将の代理)
警察が人権侵害を犯しているという批判はあるが、実際には警察は人権団体からポジティブな指摘をいくつか受けている。その中では非常事態宣言(2005年より開始)は重要であり、この状況では適切であるというものである。
我々はどのようにしたらこの紛争を解決できるか?これまで有効な政策はなかったが、それでも我々は紛争解決へ向けて公平な態度で仕事をしなければならない。政府は2009年中の紛争解決に向けて公平で責任ある解決策を模索すべきである。
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「状況が改善したと言うには早すぎるだろう。」
ウィポット将軍国防省副事務次官
状況解決のために踏み出す次のステップを決定する上で、政府がもっと高い情報収集力を持っていれば非常に役に立つだろう。
さらに、住民に近い政府職員の中には政府が定めた政策を実行できないでいるものもいるようである。全ての政府職員が同じ認識を持って任務を遂行することが重要である。
一方、反乱グループは今のところ国際的な支援を獲得することができないでいる。同じように地域外へ暴力活動を拡大することもできていない。
しかし、だからと言って事態が改善したと言うには早すぎるだろう。こう宣言する前にこの地域でのモニタリングと状況調査を続けていく必要がある。
政府機関と住民は歩み寄って協力して仕事をするべきである。社会のあらゆる層が事態の解決のために役割を果たさなければならない。
つまり、政府が治安を維持できず紛争を抑え込むために力に頼り続けるなら、事態は前と同じままである。
住民は後5年から10年も政府が事態を解決するのを待ち続けることはできない。住民は政府が強力なイニシアチブを取って事態を改善することを求めているのである。
ソース:
http://www.deepsouthwatch.org/en/node/283 (英語)
http://www.deepsouthwatch.org/node/272 (タイ語)